なぜ非可換なのか
コンパクト・ハウスドルフ空間は、その上の連続な複素関数のなす代数から復元でき、その代数は可換である。最初の図版の線の空間のように、関数が少なすぎてこうして復元できない空間もある。非可換幾何はそれでも代数を残す。もはや可換ではない代数を、ある空間の上の関数であるかのように調べるのである。無理数の巻きつきでは、その代数が非可換トーラスで、UV=e2πiθVU を満たす U と V で生成される。
最初のコマを描いています…
ひそむ秩序 · No.19 · リアルタイム図版
非可換幾何
非可換幾何をめぐる五枚の図版。どのコマも、見ているその場でブラウザが計算する。無理数の巻きつき:傾きが無理数の直線はトーラスの上で決して閉じず、こうした線はどんな連続関数でも見分けられない。そこで線の空間は、順序を入れ替えると回転一つ分だけずれる二つの操作 UV=e2πiθVU に置き換えられる。ホフスタッターの蝶:磁場の中で格子を飛び移る電子の二つの飛び移り方は、同じ関係を満たす。磁束 p/q ごとにエネルギーを一行ずつ計算すると、一本のバンドの中に小さな蝶が隠れていて、ギャップはホール伝導度で色分けされる。ホール伝導度は e²/h を単位とすると整数になる。トレースが θ の射影:リーフェルが円の上の二つの関数から作る射影は、軌道に沿って二乗しても変わらない。図版が切り出すブロックの固有値は 0 と 1 だけで、1 の割合はフィボナッチ数の比になる。道のない距離:コンヌの公式は、弧の長さ、二つの分布のあいだの輸送距離、あいだに何もない二点の距離を与える。スペクトルの増え方からは、トーラスの次元が読みとれる。素数の熱力学:ボスト–コンヌ系のエネルギー準位は log n、分配関数はリーマンのゼータ関数、独立なモードは素数で、β = 1 で相転移を起こす。平衡状態が 1 の冪根に与える値は、系が冷えるにつれて 0 から円周へ向かって移っていく。どの図版も隅に描いたものを表す数を置き、画面上で測った値と照らし合わせている。
図版 I · 全 4 楽章 · 1:00 のループ
正方形の向かい合う辺を貼り合わせるとトーラスになり、正方形の上の直線はトーラスに巻きつく線になる。正方形を一回横切るたびに大きな円を一周し、そのあいだに管のまわりを何周するかは傾きで決まる。図版はこの線を二度描く。左は正方形に平らに、右はトーラスに巻きつけて。傾きが分数 p/q なら、線は q 周で閉じる。無理数なら決して閉じず、トーラスのどの点にもいくらでも近づく。すると、どの線の上でも一つの値しかとらない連続関数は、いたるところ同じ値をとるしかない。空間の上の関数で空間を記述するというふつうのやり方では、こうした線の空間は一点にしか見えない。アラン・コンヌの答えは、作用素で記述することだった。ここでは θ だけずらす操作と e2πix を掛ける操作で、二つはもう可換ではない。隅には線を表す数を置き、画面上で測った値と照らし合わせている。
この巻の画面を、自分の手で。パラメータを変えて、画面がどう変わるかを見る。
この巻の数学は、こんなところにも現れる。各カードから、関連する Studio をひらける。
オシロスコープのリサジュー図形オシロスコープの縦と横にそれぞれ正弦波を送ると、光の点がリサジュー図形を描く。二つの周波数の比が分数なら、図形は何周かで閉じ、約分したときの分母が大きいほど長く回る。比が無理数なら、図形はぴったり閉じることはなく、時間がたつと四角い枠をほとんど塗りつぶしてしまう。Studio でひらく →
量子ホール効果1980 年、フォン・クリッツィングは強い磁場と低温のもとで、ホール伝導度が e²/h のちょうど整数倍になることを測定し、1985 年にノーベル物理学賞を受けた。2013 年には、いくつかの実験グループが、グラフェンを六方晶窒化ホウ素の上にほぼ向きをそろえて重ね、強い磁場のもとで電気の流れを測って、ホフスタッターの蝶の痕跡を見つけた。Studio でひらく →
アースムーバー距離二枚の画像の色の分布を、同じ量の土でできた形の違う二つの山だと考える。一方の山をもう一方の形に積み直すとき、運ぶ土の量にその距離を掛け、すべて足し合わせる。いちばん無駄のない運び方のときのその合計が、アースムーバー距離である。機械学習で二組のデータの分布を比べるときにも、よく使われる。Studio でひらく →
磁石が冷えるとき鉄をキュリー温度より低く冷やすと、小さな磁区ごとに、原子の磁気モーメントが外から磁場をかけなくても一つの向きを選んでそろう。自発磁化である。冷えると、とりうる平衡状態が一つから複数に増え、そのうち一つが選ばれると対称性が破れる。数論からつくられたボスト–コンヌ系が冷えるときにも、同じことが起きる。Studio でひらく →コンパクト・ハウスドルフ空間は、その上の連続な複素関数のなす代数から復元でき、その代数は可換である。最初の図版の線の空間のように、関数が少なすぎてこうして復元できない空間もある。非可換幾何はそれでも代数を残す。もはや可換ではない代数を、ある空間の上の関数であるかのように調べるのである。無理数の巻きつきでは、その代数が非可換トーラスで、UV=e2πiθVU を満たす U と V で生成される。
最初の三枚の図版は、同じ整数を介してつながっている。非可換トーラスの射影のトレースは、0 と 1 のあいだにある mθ + n(m、n は整数)の形の値を、ちょうどすべてとる(ピムスナーとヴォイクレスク、リーフェル)。三枚目の図版は一枚目の回転を逆向きにするが、これらの値は変わらない。そしてトレースが θ の射影を組み立て、残りの値の一部を直線の上に描く。磁束 α での蝶のギャップでは、その下にある状態の割合は mα + n で、対応するスペクトル射影のトレースに等しい。だから二枚目の図版のギャップは、一枚目の図版の代数の K 理論でラベル付けされている。
画面に出ているものは、どれも前もって用意した数表から読んだものではない。θ = p/q でのバンドの端は D(E) = 4 と D(E) = −4 になるところで、周期的な q × q 行列と反周期的な q × q 行列の固有値である。どれも数えることで求める。行列から E を引いて分解し、負のピボットを数えると、それが E より小さい固有値の個数になる。そのあと二分法で固有値を一つずつ、計算の精度まで絞り込む。隣の固有値とどれほど近くても構わず、エネルギーを走査しないので、細いギャップを見落とすこともない。蝶全体の 491 行にかかる時間はノートパソコンでおよそ 0.1 秒で、拡大する窓の行は、前の楽章を再生しているあいだにコマとコマのあいだで計算し、一度計算したものは取っておく。